片道書簡のラブレター

大切な人を思い浮かべながら手紙を書きます。

火鉢と鉄瓶

昔祖父が玄関先小部屋の火鉢の横にいつも座っていたように思う。その火鉢の上には鉄瓶がいつも静かな湯気を上げていた。玄関先の小部屋はお客さんがいつ来てもお茶でもてなす事ができるよう、湯呑や急須や茶葉が入った丸い塗の箱が置いてあり、小さな駄菓子が沢山入った一斗缶も置いて有った。田舎の家は広く、家人はお客さんが来てもなかなか気付けなかったためか、ご隠居の身でおしゃべり好きな祖父は玄関前の小部屋にいつも座り、お客さんが来てはお茶でもてなし、長々と話していたものだ。

あの火鉢の五徳の上にのっていた鉄瓶の中は真っ白で子供の頃はカビでも生えているのかと気持ち悪かった。今ならあれは湯垢でカルシウムやマグネシウムだと解る。鉄瓶を使い込んで湯垢の膜を作れば中が錆びないようになる。そんな事を思い出しながら私は今朝も鉄瓶でお湯を沸かしている。ガスコンロでしばらく沸騰させてすぐにポットに入れてしまうので私の鉄瓶の中はなかなか真っ白にはならない。日がな一日火鉢の炭の柔らかい熱にあたりながら、水を足し足しお湯を沸かし続ければ立派な白い湯垢が成長していくのだろう。

歌舞伎や時代劇の小道具で長火鉢と鉄瓶が玄関近くの小部屋という設定で、よく出てくる。祖父のイメージもそんな感じだった。ピウプより。