片道書簡のラブレター

大切な人を思い浮かべながら手紙を書きます。

思い出のメロディー

ある音楽を聴くとそれを聞いていたころの情景が浮かんでくる。あの頃、あれほどショパンを聞いたことは今までなかった。母を車椅子に乗せて病院に行くとき、散歩のときショパンを流しながら車いすを押していた。ショパンを流しながら車いすを押すと、私の気持ちはまるでアイススケートをしているような、ダンスをしているような気分。母はピアノを弾くのが好きだったので、自分が引いているような気分になれただろうか? おしゃべりな母も晩年はめっきり言葉数が少なくなり、ただニコニコしているだけだったので、なにか音が欲しかった。身長150cmも無くて華奢な母がちょこなんと車いすに座ってショパンを流しながら進む道はなんだか可笑しいような。不思議な車椅子走行にすれ違う人はニコッと微笑んでくれた。車椅子で外出する母の晩年であったけれどあのショパンのピアノがあの外出を楽しく彩ってくれた。こうやってショパンを聞きながらどこまでも行きたいような、でもそろそろお家に戻らなければならないような。あの車椅子でのお出かけの日は母の死とともに終わって、ショパンは思い出の曲になった。

ふっとショパンが耳に入ってくると母との車椅子走行の情景が浮かんでくる。暴走族じゃない、優雅な車椅子走行。ピウプより。