片道書簡のラブレター

大切な人を思い浮かべながら手紙を書きます。

花街

曳舟という慣れない駅を降りて目的の展覧会へ向かう。ここら辺は花街、向島と言う方が土地のイメージがピーンと来るかもしれない。料亭が点在している。料亭は看板など出さずに表札のような店名のみの行燈。ひとけもなく、ひっそりとした午後、突然近くの小学校から下校帰りの子供たちがワラワラと歩いてくる。

私は赤坂の生まれで小学生ぐらいまでは黒塀というのが其処かしこにあったように思う。黒塀というのは赤坂の料亭の代名詞であった。昼間の赤坂は舞妓さんのお稽古なのか三味線の音が聞こえてきたり、一ツ木通りは白粉の匂いもほのかに漂うようなそんな花街だった記憶がある。夜の通りはどんな雰囲気だったのだろうか。黒塀の中では夜な夜などんな宴があったのだろうか。現在の赤坂に来ても今はもうそんな花街の面影は消え去って、黒い塀もなくなってしまった。

世の中には自分の行動範囲に隣接していながらも異次元の別世界があるのだと思う。そこで何が起きているのかは想像もつかないけれど、その場所では当たり前の日常的なルーティンが行われているのだろう。

年を取るにつれ時間の距離感を短く感じるようになる。今の私の年齢はついこの前まで母の年齢であったような気がする。ピウプより。